たましいのふるさと

どうかどうかあなたさまのお声を私にください。あなたさまの綺麗な指を私にください。私は名もなき魑魅(すだま)です。姿形も声もなく、ただ啾々(しゅうしゅう)と吐息をこぼして泣くばかり。あなたさまの琵琶を奏でるお手があれば、あるいはあなたさまの朗々と歌うお声があれば、私はたくましい腕(かいな)でこの里を抱く、山の主たるあのお方に想いを伝えられましょう。かつては花に囲まれて、朝に夕にお酒をいただいておりましたのに、里は滅びて人はなく、今となっては住まいの祠も毀(こぼ)たれて、山をさまよい川に裳裾を遊ばせて、美しいあのお方を探しては、涙ばかりが川面に砕けて、きらきらと光る石になります。百年前、私はこの里の女でございましたが、橋を一本架けんがためにと人柱となったのでした。あのお方の手によって私は川の精となり、いつしか神と崇められ、父母の無念も報われようかと思いましたのに、まもなくして二親も病に倒れ、袖の乾く寸暇もなく、日々を過ごしてまいりました。あのお方のお心遣いだけが私の慰めでございましたのに、こうして里も滅びましてからはあのお方も命を共になさったようです。左様でございますから、あなたさまのお声を私にください。あなたさまの綺麗な指を私にください。天津国に届けられるのはあなたさまの楽の音だけでございましょうから。