贅沢な読書会記~『熱帯』をめぐって④~

bukatsu-do.jp

 

 

贅沢な読書会

 

横浜のイベントカフェBUKATSUDOで開催されている「贅沢な読書会」。

 

批評家の瀧井朝世さんがモデレーターを務められる二週に渡る読書会で、

一週目は瀧井さんと参加者たちで読書会、

そして二週目にはその課題作品の作者も交えての読書会という、

文字通り「贅沢な」イベントである。

 

そして、2019年2月17日と23日に行われた、

第32回の課題作品は、森見登美彦『熱帯』。

 

 

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本記事では二週目を中心に、その模様をレポートしたい。

 

波乱に富んだ申し込み

 

 

個人的なことから筆を起こそう。

 

 

森見登美彦『熱帯』については、以前に記事を書いたり、

 

 

動画に出演させていただいたり、

 

『熱帯』関連のイベントはサイン会を除くと全て参加させていただいたりと、(京都国立博物館、大阪民族学博物館の記事は近日公開予定。)

 

いわば「『熱帯』に憑りつかれて」いる。

 

 

加えて、最近は沈黙しない読書会で知り合った友人たちと

読書会をしたり京都に行ったりと、

森活こと森見登美彦活動に余念がない。

そんな矢先に本イベントの告知を見た。

 

 行かねば・・・・!

 

本イベントは、有料であり、そしてなにより先着順だった。

ところが、見れば申し込み開始時刻が、

大学院試験の開始時刻と重なっているではないか!

 

逡巡した挙句に、知人に代わりに申し込んでもらい、

なんとかチケットを確保することがかなった。

 

後からきいたところによると、

募集開始から15分という異例のスピードでの完売だったらしく、

院試が終わってから申し込めばいいか…

などと悠長なことを考えずによかったと改めて思う。

 

 

その驚異的な完売速度からも窺えるように、

人気はもちろんのこと、募集人数が少なかった。

定員はなんと20名。

 

他の『熱帯』関連のイベントの募集人数と比較すると、

京都国立博物館が250名、大阪民族学博物館が90名、

そして沈黙しない読書会が40名、

と今回の贅沢な読書会がいかに狭き門かがよくわかる。

 

第一週目 2月17日

  

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そんな精鋭揃いの、真の意味で「贅沢な読書会」。

第一回は2月17日に開催された。

 

当日は円形のテーブルに20人が座り、

順番に感想やそれぞれが感じた謎を発表する形式となった。

 

本来はそこから様々な議論が呼び起こされるのだろうが、

一人一人の熱量と、

そしてなにより「贅沢な読書会」の中では比較的人数が多いということもあってか、

それぞれの抱える謎への解答、ヒントは

翌週の森見登美彦氏の登場を待つこととなった。

 

議論の多くは二週目の質疑応答に活かされているので、

一週目の様子はこの程度にして、

私が首を長くして待ち焦がれた一週間をさっそく一跨ぎすることとしよう。

 

 

第二週目 2月23日 登美彦氏登場!

 

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第二回は、一週間後の2月23日である。

 

会場は同じくみなとみらい。

 

横浜コスモワールドから放たれる休日の喧騒や春めいてきた海風をぼんやりと感じながら、

地下へと続く階段を降りるとそこは活気と陽気に溢れたBUKATSUDOだった。

 

 

そわそわしながら待っていると、

瀧井さん、そして森見さんと、担当編集の浅井さんのご登場である。

 

参加者たちは大きな拍手で出迎え、

たぬきのしっぽのようなふわふわとしたなごやかな雰囲気の中で、

会は『熱帯』の海へと漕ぎ出した。

 

(以下は、会の質疑応答を私のメモを参考にしながら書き起こしたものです。

事前に参加者は「森見さんに聞いてみたいこと」という質問を瀧井さんに送りました。

当日は瀧井さんが話の流れなどを考慮しながら、

その質問を森見さんに投げかけ、

森見さんが回答するという流れで進められました。

そのため、参加者が発している質問の多くは、

実際は瀧井さんの代読によって進められています。)

 

 

会の始まり

 

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瀧井朝世さん(以下、瀧井)「よろしくお願いします。

まさか横浜にいらしてくださるとは。

 

森見登美彦氏(以下、森見)「いやいや。

 

瀧井「こういう読書会は初めてですか?

あ、でも沈黙しない読書会とかもやってらっしゃいますもんね。

 

森見「いや、あの時はもうちょっと多かったし、ここまで近くもなかったので…。

 

瀧井「圧を感じますか?(笑)

 

森見「緊張します(笑)

 

瀧井「先週はみなさんと感想を交わしまして、

細かく読んでくれた方から初めて読んだ方までいろんな方がいらっしゃいました。

今までの森見さんの作品とは違う、集大成感があるという感想が多く聞かれました。

 

 

『熱帯』の誕生

 

matogrosso.jp

(現在、連載版『熱帯』は公開されていません。

さる奇特な方より、連載版を見せていただけたので、

三月公開予定の『『熱帯』をめぐって2.0』で、

比較検討もするつもりです。)

 

 

瀧井「そもそも何年頃に書かれたんですか?

 

森見「2010年に、web誌マトグロッソに『熱帯』の連載を始めました。

最初は「謎の本」についてのお話を書きたいという軽い気持ちで、

他の連載もかかえていたため、書きながら考えていました。

 

瀧井「マトグロッソに連載されていたのは第三章まで?

 

森見「はい、三章終わりまで。

内容はかなり変わっていますが、

森見登美彦」から始まって、白石さん、池内さんと

語り手が変わっていくという構造はそのままです。

 

瀧井「そして、そこですべての連載を中断され…。

 

森見「悲しい出来事でした…(笑)

 

瀧井「『アラビアンナイト』を読んだのはその時だったんですよね。

 

森見「正確には覚えてないのですが、

連載を中断して奈良に帰ってからしばらくしてからでした。

 

瀧井「『熱帯』のために読んだわけではないんですよね。

 

森見「はい。

連載していた時は『熱帯』は不思議な本ということは決めていましたが、

なぜ不思議なんだろうということまでは決めていませんでした。

最後に『熱帯』という小説がどう書かれたかに行きつくんだろうなと思ってはいたんですが、

あてもなく…。

 

中断している間も、ぼんやりどうして不思議なのかなあと考えていた。

その時に『千一夜物語』に出会って、

色々調べているうちに、『千一夜物語』が『熱帯』に変身するってことにすればいいんじゃないかと思いついた。

それでようやくなんとか完成させられそうだと思った。

 

瀧井「それまでは完成させられなさそうだった?(笑)

 

森見「(笑)

それまでは、佐山尚一という人が一人で創り上げるイメージだった。

だから、連載時は最後に1980年代の京都で、

佐山さんが一人で書くつもりでした。

ただ、中断してる間に、80年代の京都よりもっと遠くのものを書きたくなった。

 

もう一つ個人的な体験ですが、尾道に行くことがありました。

尾道から渡し船に乗って向島という島へ渡ったときに、

船から尾道を振り返ったら尾道が島みたいに見えたんです。

そのときに「あ!島の話書きたいな!」って。

だから不可視の群島の大元は尾道です。

 

瀧井「中断を経たからこそ、『熱帯』がどういう物語かっていうのもしっかりしていったってことですね。

 

森見「そうですね。

もしかしたら、単純に佐山さんが小説を書くっていうわかりやすい話になっていたかもしれません。

 

 

瀧井「どうやって結末をつけるかって大変じゃなかったですか?

 

森見「うーん。もう忘れ始めているのですが…。

だいたいの終わり方は、

後半を書き始めたあたりから、ある程度はわかってました。

ただ、そこにどうやっていくのかに苦労していた気がします。

 

結局最終的に、作中作の『熱帯』っていう小説の端っこが破れていて、

我々の世界につながっている。

単純に作中作の中から戻ってくるのではなく、

連続しているような。

そういう終わり方の要素は早い段階でできていました。

ただ、それを具体的な物語にどう落とし込むかに、色々回り道をしました。

 

たとえば、満州のこととかは一か月くらい書いてたんですが、

ほとんど削りました。

そんなに長くする意味がなかった。

僕はそういう場面を書くのが初めてだったので、

かなり気負って、随分膨らませてしまった。

しかし、あまり意味がないと思いバサッと切りました。

 

あとは、今のバージョンだと、

満月の島をシンドバッドがつくりますけど、

ネモくんが作るバージョンもありました。

しかし、いやいや違うとやめたり・・・。

おかげで何度も島をしずめていました(笑)

 

 

瀧井「それでは、そろそろ参加者の方からの質問に移りましょう。

 

章立ての謎

 


【 沈黙しない直後の読書会 】 森見登美彦 「 熱帯 」について語り合いましょう〜 文学YouTuber ムー のチャンネルについても【 文学って何 ?】 - YouTubewww.youtube.

(章立てについては、生放送でも少し触れました。)

 

 

渡辺(スケザネ)「章立てについて。

本作品の章立てには何か狙いがありますか?

特に「後記」が気になります。

単純に6章でもないし、反対に序章があるわけでもない。

管見ですが、1~3章は『熱帯』をとりまく人々の物語、

4章は共通の『熱帯』、5章は無風帯、

そして後記が「自分だけの『熱帯』~佐山ver~」ととらえています。

 

 

森見「難しい(笑)

えーと、最初のほうはエッセイみたいにしたかった。

読み始めたら、森見登美彦が出てくるからエッセイなのかな?小説なのかな?みたいなあやふやなところから物語が始まる。

現実と小説との境をぼかしたかった。

 

1~3章は読者の立場。『熱帯』を読む人たちの物語。

読書会をしたり、謎を追ったりする人々。

一冊の小説をめぐって我々がどういう体験をしているのかを物語にしました。

4、5章は、章の役割を緻密に決めていたわけではないが、小説を書く人、作り出す人のイメージで書いていました。

 

どのように『熱帯』っていう小説が生まれたか、

もっといえば僕自身がどうやって書いているかを重ねて、

更にそれ自体が作中作となっているなど、色々なものが重なっている。

 

読む人と書く人の物語という意味で、

特に3章は、初めは読む人だった池内さんが、

徐々に書く人へと変貌していくというバトンタッチの構造になっています。

 

後記は、エッセイのように始めた1章の裏返しです。

後記はあとがきのように見せつつ、

現実と小説の世界の境があいまいにしています。

1章と対比させていて、1章の語り手は森見登美彦で、後記の語り手は佐山尚一。

この後記はいったい何の後記なのか。

全体の後記なのか、作中作の後記なのかを曖昧にして面白かったです。

 

瀧井「渡辺さんは7回読まれたそうです。

 

森見「お疲れ様です(笑)

 

 

登美彦氏自身の創作体験 

 

(登美彦氏とトラとの関係は、沈黙しない読書会の記事も併せてお読みいただけると、理解がぐっと深まる。)

 

Kべさん「いま書き手の物語とおっしゃいましたが、

生み出した経験と言うと、

特にどのあたりが森見さん自身の経験と重なりますか?

 

森見「割と全部ですね。

 

一番わかりやすいのは、なにもない海があるところからはじまるということです。

そこに断片的に島が出てきて、

それが結びついて、だんだん小説の世界が見えていく。

その過程は『熱帯』の南の海にそのまま重ねています。

 

あとはたとえば、トラ。

トラがでてきますけど、

自分が小説を書いているとき、自分だけで書いている感じではないんですよ。

 

もちろん自分の頭だけで書いているんですけど、

自分が意図していないことが小説に入り込んできたりすることがある。

でも、そいつの好き放題にさせていると、訳の分からない作品になる。

それをトラと呼んでいます。

なので、そのトラとの駆け引きや関係性を4、5章にそのまま書いています。

 

最後に佐山尚一が京都に戻るときに、

トラとお別れする場面のやり取りは、僕と『熱帯』とのやり取りなんです。

僕が書き終えたときに『熱帯』になんて言ってあげたいか、

そしてなんて言ってほしいか。

 

瀧井「小説を書くのは、作者だからって

全てをコントロールできるわけじゃないですもんね。

 

作者なりの『熱帯』の結論

 

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Mながさん「森見さんの中でこの物語の結論は出ていますか?

また、その時によって解釈は変わるのでしょうか?

 

森見「まあ、僕にとってこういうお話かなあというのはあります。

それは、まさに今話した、自分が読んだり書いたりするときの物語。

 

ただ、時間が経つと解釈も変わったり、新たにわかることもあるから、

結論がでているかと言われると…。

 

完成して時間が経つと、自分と距離ができるから、また違う印象が生まれる。

書いてるときは一生懸命そのことばっかり考えているけど、

何年かするとどうして書いたのかというのがわかってくる。

もちろん自分としてこう思うというのはあるけど、

それが絶対とは思わない。

 

 「物語ることによって登美彦氏自らを救え」

 

Mださん「P.484「物語ることによって汝自ら救え」とあるように、

森見先生自身も『熱帯』を執筆されて救われましたか?

 

森見「終わったことによっては、解放されて救われました(笑)

お話の中でこういう台詞はすんなり響くんですが、

現実で言うのはなかなか恥ずかしい…。

 

でも本質的には救われたと思います。

その時の自分を描いていったので、自分の一部みたいな感じ。

それと救われるということとが何か関係あるかもしれません。

 

なんで自分が小説を書くのか、

その答えとしてこの台詞を自分に言い聞かせている感じもします。

だからこの台詞は僕自身が言っているというわけではないです。

 

登美彦氏、『熱帯』を書き終えたことで世界を変える

 

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Mしたさん「佐山尚一が『熱帯』を書きおえて現実に戻ってきたとき、

世界が微妙に変わっていました。

森見先生も『熱帯』を書き上げて、

世界が微妙に変わっていると感じることはありましたか?

 

 

森見「書き終えたことで、自分自身に変化はあります。

憑き物が落ちるように、別の自分になったみたいな。

どんな小説を書いた時も思いますが、とりわけ『熱帯』は長かったので。

 

『熱帯』を書いたことで、読者の方に共有され、

こういうイベントが起きたことは正に変化です。

今まで自分と担当の浅井さんだけしか知らなかったものが世に出て、

皆さんがそのことについて話している。

すごく不思議です。

 

この間、大阪の民族学博物館で、佐山尚一のモデル…といっていいのかな、

西尾先生とイベントをしたんですが、その時はすごく不思議な気持ちでした。

まるで自分が『熱帯』の中に入ったようでわくわくしました。

お話の世界と自分の世界とがあいまいになる。

 

そのあと、深緑野分さんたちと

千里阪急ホテルのラウンジで『熱帯』のお話をしたんですが、

その状況がまるで『熱帯』みたいで(笑)

今にも不思議なホテルマンが出てくるんじゃないかと。

 

『熱帯』と地続きだなと感じましたが、

それは『熱帯』を書いたからこそ感じられることです。

現実の出来事が今までと違う意味を持つ。

 

人にはそれぞれ座るべき椅子がある

 

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 (沈黙しない読書会でも椅子は印象的に並べられていた。)

 

Mしたさん「椅子がたくさん出てくるシーンがありますが、

先生ならどのような椅子に座りますか?

 

森見「そもそもなんであのシーンを書いたのかな。

 

単純にソファが好きなんです。

本を読むときにいいソファがいいなあって。

連載してた時に、どんなソファを買おうか悩んでたんですよ(笑)

こんな部屋があったらおもしろいなって。

本を読むことと椅子ってすごくつながりが深いので。

 

瀧井「ソファで本を読むんですか?

 

森見「ソファか、寝そべってか、机に向かってか。

読む本によって変えますね。

ギャグマンガ日和』とかは寝そべって読みますし、

難しい本は机で読みます。

 

塩辛いお茶とおばあさま

  

Mながさん&KZさん「P.376の塩辛いお茶について伺いたいです。

 

瀧井「これ、先週も話題になったんですよ。

なんでお茶が塩辛いんだろう、海水なのかなとか思ったんですが。

 

森見「母方の祖母がいつも麦茶に塩をいれてたんです。

 

うちの祖母は大阪で石材屋さんをやっていたんですが、

出入りしている職人さんたちは肉体労働をして塩分が不足するので、

お茶に塩を入れていたらしいんですね。

だから、ばあちゃんにとって麦茶は塩を入れるものだし、

僕にとっては懐かしい味なんです。

 

そして、これは南の島の話だから、

塩をいれておかないと塩分がなくちゃうなと。

完全に個人的な話です(笑)

 

瀧井「おいしいんですか?

 

森見「しょっぱいっていうか、ほのかに塩が香る程度で、さっぱりしますよ。

 

登美彦氏と飲み物

 

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 (この「ニセ」は登美彦氏の直筆だそうである。)

 

Mながさん「電気ブランは好きですか?

 

森見「僕はお酒はそんなに強くないです。

だから、電気ブランソーダ割で飲みますね。

そのまま飲むときついんですよ。

 

瀧井「何人かから質問が出ていますが、コーラはいかがですか?

森見作品にはよく登場しますが。

 

森見「自動販売機が好きなんです。

 

……。

これ、万城目さんに何言ってるかわからないってバカにされたんですけど(笑)、

子どもの頃から自動販売機が好きだったんです。

 

自転車でできるだけ寂しい場所にある自動販売機に行って、

そこで缶コーヒーを飲むのが好きだったんです。

当時はなんで好きなのかわからなかったけど、

今思えば…、こんなの言ってもわかってもらえるかな…、

そこが世界の果てみたいな感じがしたんですよ。

 

町の中にある自動販売機じゃだめなんです。

僕が住んでいたあたりって、開発中の住宅地で、

荒れたところに自動販売機が無造作にあると、

ものすごく遠くに来た感じがしたんです。

人類の文明が終わって、この自販機が最後の砦みたいな。

 

だから、自分の日常の端っこ、

そこから先に行くとどうなってるかわからないみたいなことが感じられるものが

僕にとっての自動販売機です。

 

そして、その自動販売機は人工的であればあるほど非現実感が高まる。

そのためには、コカ・コーラの赤い自動販売機が鮮やかで一番いいんです。

 

瀧井「あ、コカ・コーラの缶よりも自販機が大事なんですね!

 

森見「そうです。もちろん缶も大事なんですけど。

だから『熱帯』でも自動販売機が出てくるところは世界の果てなんです。

ネモ君によってつくられる不可視の群島は世界の果て。

だからあそこには自動販売機がないといけない。

 

そういう意味では、海と自動販売機だから、

ペンギン・ハイウェイ』と同じなんです。

あれも世界の果てるところを意味しています。

自分の中ではつながっています。

 

コーラが一番人工的で、未来の感じがするんですよね。

 

自動販売機と竹林と…

 

 

 

Nかさん「自動販売機に関連して、

『聖なる自動販売機の冒険』という小説もありましたよね。

 

森見「あれはノリで書いてしまった・・・(笑)

あれも自動販売機は、屋上という我々の住む地上の果てにあるんです。

有頂天家族』でもそうでした。

 

Nかさん「自動販売機と同じようによく使っているアイテムがあれば教えてください。

 

森見「信楽焼のたぬきとかだるまとかよく使うものがあるんですが、

そいつらはなんで出してるかいまいちわからない(笑)

 

僕の中で、自動販売機と近いのは、ローカル線の終着駅と竹林です。

そして、そこには自動販売機があると望ましい。

 

柿の実に小さな龍が描かれた根付 

きつねのはなし (新潮文庫)

きつねのはなし (新潮文庫)

 

 

 

KZさん「柿の実に小さな龍が描かれた根付はなんですか?

 

森見「今回、『熱帯』で芳蓮堂が出てきたので、

以前に同じく芳蓮堂が出てきた『きつねのはなし』で登場した根付を出しました。

 

そもそもこの根付はイギリスで見ました。

僕が一ヶ月くらい語学研修でイギリスに行ったときに、

ヴィクトリアン・アルバートミュージアムというところに行ったんですが、

そこの日本コーナーにあった根付が印象的で、

その中でも特に記憶に残ったのが正にこれでした。

大きくはないけど、すごく丁寧に作りこまれていましたね。

 

それで、帰国後に『きつねのはなし』を書いたときにそれを登場させて、

『熱帯』でまた使う。

ある意味、以前登場した人物が再登場するように、

根付という物が再登場したという感じです。

 

 播磨坂の千夜さんのマンション

 

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Aひさん「千夜さんのマンションはなぜ播磨坂にあるんでしょうか?

 

森見「当時、千駄木に住んでいて、小石川に仕事場を借りていました。

立花隆さんの猫ビルの隣でした。

 

時々散歩して、播磨坂のほうまで行くことがあって、印象に残っていました。

それが千夜さんのイメージとぴったり合いました。

 

 

『熱帯』の絶対ルール

 

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Kたさん「密室や海図の暗号はどんな意味があるんでしょうか?

ミステリーの密室や暗号は解くことが前提だと思うんですが、

『熱帯』のそれは解かなくてもよいものなので。

 

森見「密室は入れ子にするという発想から出てきました。

密室であることよりは、入れ子であることに主眼があります。

最終的には内側から鍵を締めて、更にその内側に入っていく。

 

瀧井「密室は箱のイメージですか?

 

森見「そうです。

箱の中に箱が現れて、

更にその中に箱が現れてその中に入っていく、というイメージでした。

 

この『熱帯』という小説には、「常に中に入っていく」というルールがあるんです。

語り手が変わるときも入れ子になる。

最後に佐山尚一が京都に戻って後記を書くところすらも入れ子になっている。

普通、入れ子になると元に戻ってくるんですが、

『熱帯』は入れ子を続けて、向こうに抜けていく。

 

3章はそのルールの根幹です。

ここを書いていたときはすごく悩みました。

どうやって3章から4章へ行こうか、どうやって南の島へ行こうか、と。

 

その悩んでいたときになぜうまくいかなかったというと、

入れ子にして4章に行かないといけないのに、

ずっと入れ子にしないで4章にいこうとしていたんです。

 

入れ子にならないバージョンには面白いのも色々ありました。

密室の本棚を突き破って南の島に行くとか(笑)

 

瀧井「ええ(笑)

 

森見「それはハッピーエンド的だったんですけどね。

白石さんが、本棚の向こうから池内さんを呼ぶんです。

池内さんが本棚から『千一夜物語』を抜くと、

隙間から南の島が見えるけど、狭くて通れない。

それを白石さんが手助けをして、池内さんが本棚を突き抜けて南の島に行ける。

 

そして、南の島で佐山尚一の手記を二人で見るというある種のハッピーエンドだったんですが、

それは大事な入れ子のルールを守れない、ご都合主義だったので、あきらめました。

 

起きてはいるけど、描かれていないこと

 

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Mださん「池内さんと白石さんは、

電話を最後にもう会うことはなかったんでしょうか?

 

森見「僕も出会わせたかったんですがね・・・。

ただ、どうしても白々しくなってしまった。

でも、二度と会うことがなかったというよりかは、

出会ってるとは思うけどそこは描かれていないという感じだと思っています。

 

池内さんがその後どうなったか、

白石さんは池内さんを追ってどうなったかというそれぞれのお話はあると思うけど、

それはこの小説には書かれていない。

だから、二人はきっと出会ってると思います。

 

 

Nうみさん「白石さんはどのような立ち位置なのでしょうか?

好きなキャラクターだったので、いなくなってしまって…。

 

森見「僕としては3章にも白石さんを出したかったんですけど、

どうやっても出せないんですよね。

池内さんが書いた手記を白石さんが読むのが第三章ですから。

砂漠の宮殿ですれちがったりとか色々考えたんですが、うまくいきませんでした。

 

 

Kたさん「中津川さんや新城くんは彼らの結末にたどりつけたのでしょうか?

 

森見「それぞれの『熱帯』に出会って、色々経験して、それぞれが出ていく。

だから、彼らには彼らなりの『熱帯』があったのではないかと思います。

 

暴夜書房と沈黙読書会

 

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 (沈黙読書会の会場のモデルと呼び声の高い某喫茶店

 

Kたさん「喫茶店や暴夜書店の店長の立ち位置はどんなものでしょうか?

読み手や書き手とも違った立ち位置だと思うのですが。

 

森見「あまり厳密には決めてません。

暴夜書房の店主は怪しいなと思いながら書いていましたが、

厳密に書くとよくないかな…と思い、ぼやかしました。

茶店の店主についてはあまり考えていませんでした。

ただ、二人とも怪しい、達観して、何か知ってそうな。

 

 

『熱帯』と満州 

秘境西域八年の潜行〈上〉 (中公文庫)

秘境西域八年の潜行〈上〉 (中公文庫)

 

 

 

Kがいさん「なぜ満州を登場させたのでしょうか?

 

森見「私の父方の祖父が戦時中に満州に行っていました。

栄造さんの満州での暮らしや設定はその祖父に拠っています。

実際、祖父も文官屯にいましたし、

文官屯に戻る経路も、祖父から聞いた話を利用しました。

ただ、栄造さんは奉天から文官屯まで歩いて長谷川健一と月を見ますが、

じいちゃんはバスでした(笑)

 

 

瀧井「おじいさまからお話を聞かれる機会は結構あったんですか?

 

森見「小学校四年生くらいから同居していたので、

じいちゃんばあちゃんの両方からよく話を聞いていました。

 

おもしろいのは二人で目の付け所が違うんですよ。

たとえば、ばあちゃんはかわいそうでした。

 

私の父の兄は満州で亡くなりました。

終戦間際にじいちゃんが文官屯を離れ、

ばあちゃん一人残されて、父親の兄はそこで病気で亡くなってしまった。

その後じいちゃんが帰ってきて、一年くらいしてから日本に帰ってきました。

だから、ばあちゃんにとって、そのころの記憶は辛いものなんですよね。

 

 

祖父のことを書きたかったから満州を出しました。

あと、『熱帯』の正体が『千一夜物語』だということにしようと思ったときに、

千一夜物語』が日本にどうやって来るか考えた。

 

そして、僕の祖父が満州にいた。

更に、『千一夜物語』がもっと西から受け渡されるにはどうすればいいか考えていた。そのとき、巻末の参考文献にある西川一三『秘境西域八年の潜行』をたまたま読んだら、

この西川さんという方はもっと西から中国に来た。

 

だから祖父の経験と西川さんの経験を組み合わせつつ、『千一夜物語』を日本に引っ張ってきたかった。

 

大きな物語の崩壊

 

 

祖父が満州で敗戦を迎えたとき、

それまで信じていたこと、与えられていたこと、

大きな物語が全てご破算になった。

しかも、日本にも帰れない。

 

そんな空っぽになったところに

『熱帯』という新しい物語がスーッと入ってくるというのは、

言い方はよくないけど、美しいと感じた。

物語の真空状態に、『熱帯』が入ってくる。

 

瀧井「本当は満州についてもっと長かったんですよね?

 

森見「はい。でもあまり出来がよくなかった。

文官屯の暮らしのディテールや長谷川健一とのやり取りとかいろいろあったんですが、

全部消しました。

5章の後半まで来て、更に入れ子にはできなかった。

 

Kがいさん「他の時代や違う土地について、また書きたいと思いますか?

 

森見「うーん、今回すごくしんどかったんですよ…。

自分からかけ離れた、歴史的な材料みたいなものを扱うのは自由にはできない。

自分の中で立体的に動かない。

だから懲りました。

 

今回は、満州という土地も問題でした。

過酷で悲惨な場所なので、

調べていくと書きたくないことがたくさんある。

 

今回も満州の一部だけを切り取っているけど、

本当はその外側で色々大変なことが起きているはず。

そこを具体的には書いていないし、自分のやりたいことではないんですよね。

祖父もそういう悲惨な話はしなかった。そんないい時代だった訳ないんですが。

 

でも、実際に調べるとそういうわけにはいかない。

満州はのんきには書けない。

 

森見作品に於ける父親 

有頂天家族 (幻冬舎文庫)

有頂天家族 (幻冬舎文庫)

 

 

 

KZさん「森見先生が描く父親像について聞きたいです。

『熱帯』以外も、父親にはへっぽこな人がいない、

子どもにとって理想的な存在が多いので。

 

森見「今までのところはそうなっているけど、

もっとへっぽこな父親を書かないといけないんですよね。

自分の中にある父親のイメージの一つの側面を書いてるだけで、

自分の父親そのものとは限らない。

父親と息子との関係性は自分にとってすごく大事なわけではないし、

自分の父親にもへっぽこなところもある。

 

ただ、今までの話の作り方の関係で、

立派な父親として描いたほうがやりやすかった。

だから、これからはへっぽこな父親がでてくると思います。

 

迂闊に物語ってはいけない

 

 

Fやさん「佐山の「うかつに思い出を語ってはいけないんだ」という台詞は、

教訓的な言葉に感じました。

森見氏の個人的な経験もあるのでしょうか?

 

森見「個人的な経験があるわけではないですね。

ここでイメージしていたのは、

物語や小説を語るというのを迂闊にやってはいけないということだったと思います。

 

ここでは思い出と言っていますが、

自分が小説を書くときに、自分が感じたり妄想したりしたことが色々思い出すわけじゃないですか。

そういうのを組み合わせて膨らませて物語を作っていくんですが、

そこに何か変なものをいれると膨らまなくなってしまう。

迂闊に余計なものを放り込んで語っていくと、

台無しになってしまうというイメージが自分の中にあるんです。

そういうことを想定していたと思います。

 

善光寺坂の謎の女性

 

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Nかさん「P.96「長い坂の途中、善光寺の門前あたりに女性が佇んでいる」、

この女性は誰ですか?千夜さんですか?

 

森見「うーん、わからないです(笑)

こういうのを書きたかったんですよね。

 

おそらく、坂道の向こうっていうのは外の世界みたいなイメージ。

だから、千夜さんかもしれない。

あるいは白石さんは『熱帯』を読んで、

向こう側の世界が見えてしまっているかもしれない。

白石さんの現実は少し破けているのではなかろうか、という感じです。

 

この善光寺坂の横に仕事場を借りていたので、

善光寺坂が好きというのもありました。

 

池内さんの行方

 

twitter.com

 

Yしろさん「池内さんは物語から消えた後どうなってしまったのでしょう。

物語の世界に取り込まれたのでしょうか?

三回読んだんですが、捉え方が毎回変わりました。

はじめは、4章からというのは池内さんが実際にあの世界に行ってしまって、

池内さんの体験だと思って読んだんですが、

二回目読んだときは平行世界なのかなと。

三回目は、元の世界が少し変わったという可能性もあるなと。

 

森見「佐山さんにとっての世界が変貌したと考えたほうがいいかなと思います。

 

毎回反省するんですけど、3章から4章へのジャンプにみなさん戸惑われている。

池内さんが4章の世界に「入り込む」という読まれ方をする方が多いのですが、

これは私の至らぬところです…。

それも観測所にネモくんがたどり着いたところに

佐山尚一を名乗る男が現れるので輪をかけてややこしくなる。

申し訳ないですとしか…(笑)

 

池内さんは物語から消えたというより、

池内さんについては語られていないというのが正解かなと思います。

 

池内さんの書く『熱帯』が、

グラデーションのように徐々に佐山尚一の『熱帯』になっている。

 

どこからどこまでが、池内さんの書いたものかというのは解釈によります。

後記まで池内さんが書いた可能性もある。

あるいは佐山尚一が書き上げたことで京都に戻って後記を書いている。

そういったいくつもの可能性があります。

 

 

瀧井「十人十色のそれぞれの『熱帯』があるんですね。

 

センテンスのダブルミーニング

 

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渡辺「P.124「物語の袋小路」、P.518「生き延びることが大事だよ」は

素直に読むと、文意が通らなかったり大げさだったりしますが、

作品全体で考えると示唆的です。

発話者の意図とは別の意味を持つダブルミーニングのようなセンテンスとして読めます。

作者としてはどのような意図があったのでしょうか?

 

森見「単純に「物語の袋小路」って言いたかったんですよ(笑)

物理的に閉じ込められるし、

しかもお話的にも詰まりみたいな感じだったのでこの言葉が使いたかった。

 

瀧井「「生き延びることが大事だよ」はどうですか?

 

森見「それを書いているころ、『熱帯』を書いてへとへとになっていたんですよ(笑)

 

『熱帯』を書く前、小説の書き方にずっと悩んでいた。

自分にとって小説や世界はなんだったんだろう、と。

だから、この台詞は自分に向かって言っているんですよね。

まずは生き延びなさいと。

佐山尚一を別の世界に誘っていた栄造さんが、

よくわからない穴に吸い込まれないで、こっち側にいなさいという。

ある種の着地点みたいなものです。

 

主人公の謎と世界の謎

 

 

Kがいさん「森見先生にとっての謎ってなんですか?

 

森見「『熱帯』という小説のなかでは、

自分の内側にある謎と世界の側にある謎はつながっている。

 

世界の謎を追っていくと、自分の中の謎とつながっている。

 

もちろん、現実世界ではいつもそんなわけではないんですが、

僕の小説では主人公にとっての謎と世界の謎はイコールにします。

 

世界に謎が現れたら、それは主人公の内側にある謎とつながっている。

主人公と無関係の謎が現れても意味がないので。

 

だから4章のネモ君が何者かという謎と、不可視の群島という世界が何なのかという謎は繋がっているんですよね。

 

千一夜物語

 

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Oみちさん&Nむらさん「『千一夜物語』で好きな作品はなんですか?

 

森見「読んだときの記憶がぐちゃぐちゃになってますね・・・(笑)

タイトルが思い出せないな…。

えーと(調べながら)、

『せむしの男および仕立屋とキリスト教徒の仲買人と御用係とユダヤ人の医者との物語―つづいて起こったことども―ならびに彼らがおのおの順番に話した出来事』ですね。

 

千一夜物語』の中で、一番最初に出てくる入れ子を多用した話で、

僕はそれに出くわしたときにすさまじいものを読んだなと感じた。

入れ子になった挙句、

入れ子の底に出てくる人が最終的に事件を解決して去っていくという、

不思議でよくできている話でした。

 

マルドリュス版は最初の1.2巻だけ読んでも面白いと思います。

なにも全部読まなくても…。僕も読んでいませんし(笑)。

 

ラストとだるまくん

 

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Aひさん「ラストに『熱帯』の装丁の描写が具体的に出てきますが、

達磨君の描写がないのは、まだ別の『熱帯』が存在しているのでしょうか?

 

 

森見「ここで「だるまくん」という言葉をいれると、

ちょっとおもしろくなっちゃうので、ごめんなさいと(笑)

 

ちなみに、佐山尚一『熱帯』の装丁は、

エラリー・クイーンの昔の装丁がいいなあと思ったので、

そんな感じでとリクエストしました。

 

熱帯暗号について

 

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 (沈黙しない読書会にて。)

 

Aださん「沈黙しない読書会の様子を伺って、

参加者に配ったカードの謎を解いてもらおうと思ったきっかけが気になりました。

小説のみならず現実にも投入した理由を伺いたいです。

 

森見「実は僕も全貌は知らない。

全て浅井さんが企んでいることで、踊らされている一人です(笑)。

 

編集・浅井さん「私が企んでいるというより、

誰にも読み切れない『熱帯』という作品を書いた森見さんへの、

『熱帯』からのギフトなんです。

森見さん自身も読み切れないものが送られてくるというシステムになってます(笑)

 

瀧井「ゴールはあるんですか?

 

浅井さん「何段階にも組み合わされている謎があるらしいです。

森見さんが小説内で海図に暗号とかが書かれているという描写はされていたので、

それを勝手に膨らました世界が立ち上がっているという状態です。

 

森見登美彦と落語 

古典落語 (講談社学術文庫)

古典落語 (講談社学術文庫)

 

 

 

Kたさん「『熱帯』の冒頭で登美彦氏が『古典落語』を読んでいますが、

先生ご自身は落語がお好きなのでしょうか?

 

森見「僕は落語を実際に聴きに行ったことはなくて、読むだけですね。

講談社文庫の『古典落語』を鬱屈したときに読んで気晴らしをしています。

落語の雰囲気、空気感はほっとするので、

自分がこわばっているなというときは、落語を読んで感覚を取り戻します。

有頂天家族』とかは落語的な世界観と合っている。

 

父親は枝雀さんとか好きですね。

 

直木賞落選ブログの秘話

 

tomio.hatenablog.com

 

Mながさん「直木賞の選評から、今後は短編集を書くことはありますか?

 

www.sankei.com

 

 

森見「短編を書くことはもちろんあるし、そのほうが得意だと思います。

 

『夜は短し』とか『有頂天家族』とかも小さなパーツが寄りあつまってる感じで、

一人の主人公の話がずっと続くような純粋な長編ではない。

純粋な長編は『ペンギン』『怠け者』『熱帯』の三つだけです。

ただまあ厳密には『熱帯』も変な構造ですし。

 

Mながさん「直木賞のブログもとても面白かったです。

 

森見「ブログは直木賞の候補になったからには書かなきゃと思ってます。

自分の中では、あれまで含めて直木賞。自分の最大の見せ場だと。

せっかく落ちたんだから(笑)、いいことを書きたい。

とってしまったら書くことがないんですよ。

綺麗に負けたい、敗者の美学みたいな。

そこはある意味楽しみですね。

 

僕のやりたいことが直木賞の基準とはずれている。

だから簡潔に言えばとれないんです。

直木賞には直木賞の「小説はこうあるべき」という考え方がある。

単純に面白い小説や売れてる小説にあげればいいわけじゃない。

そういう基準と、僕のやりたいと思ってることとは違う。

すると、僕が直木賞の基準に合わせるか、好き勝手書くかのどっちかしかない。

 

そして好き勝手書いていると、

候補になっても受賞できないということはわかる。

だから、お祭みたいな感じです。

他の候補者や選考委員と戦っている感覚もない。

 

候補になる人にも、受賞する人にも役割がある。

僕には僕の役割がある。

祭だから、祭を盛り上げるそれぞれの役割がある。

盛り上げるためにブログを書いています。

このように私は負けている、と。

だから、私は堂々と負けているのだ(笑)

 

毎回ちゃんと書けるかなとひやひやしてます。

あのブログをおもしろく書けなかったら本当に負けなので…(笑)

候補になった時から、ブログになに書こうかずっと考えてます。

 

今回も、去年のクリスマスに万城目さんと飲んだときに、

これは面白いから、来年直木賞に落ちるまでとっておこうと。

 

登美彦氏にとっての舞台

 

 

Wまつさん「横浜もいい町ですが、小説の舞台になることはありませんか?

 

「自分が暮らした町じゃないとなかなか書けないんですよね。

それこそ満州もそうだったんですが・・・。

取材して書くっていうのが苦手なんですよ。

自分の経験やよく妄想していることとか、

自分にとってお馴染みの物事じゃないと小説になかなかできない。

 

深緑さんみたいな書き方はできない。

ベルリンのことなんてなにも書けません(笑)

憧れはあるんだけど。自分の中で血が通っているものじゃないと、

そこから小説を作っていくことはできない。

 

 三題噺

 

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Kつさん「小説で佐山さんがやっている三題噺は、森見先生の経験ですか?

 

森見「自分が小説つくるときによくそれに近いことをやっています。

さっき言ったように、自分のお気に入りの情景やアイデアとかを

いくつか結び付けてお話にしていく。それに似ています。

ただ、パッと作るという佐山さんみたいな才能はありません。

でも、原理的には三題噺です。

 

 

Kたさん「池内さんが白石さんから『熱帯』の話を聞いてから、

すぐ学団に呼んだり『熱帯』について訊かなかったりしたのには

なにか理由があるんでしょうか?

 

森見「白石さんが語っているので、

白石さんが受け入れるまでの時間みたいな感じだと思います。

そんな深淵な意図があるわけではないです(笑)

 

 

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瀧井「では、このあとサインをお願いしたいと思います。

読書会はここでひとまず終わりにします。

ありがとうございました!

 (一同拍手)

 

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モデレーターの瀧井先生、そして森見先生はじめ、編集の浅井さんや、係の方々にご親切にしていただき、改めて御礼申し上げます。

素晴らしいイベントでした。

また、参加者の皆様からは多大な刺激と発見を頂戴し、これだけたくさんの人が自分と同じように『熱帯』に憑りつかれているのだなと、うれしくなりました。

 

最後に、善光寺播磨坂、神保町など「聖地」のお写真を快く提供してくださったKZNewsさん

そして、だるまの色紙や登美彦氏のお写真をご親切にも使わせてくださっただるまちゃんさん

その他全ての参加者の方々にお礼を申し上げます。

 

【今後の更新予定とお知らせ】

森見登美彦『熱帯』については、

2/3の京都国立博物館トークイベント、

 2/11の大阪民族学博物館の『千一夜物語』のイベント、

更に、拙稿ですが、現時点の決定版『熱帯』論を順次公開予定です。

三月中には全部公開予定です。

 

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